記録 01
落ちた梨の行方
閉店した写真館の寄贈展が始まる。まだ、誰も写真の違いに気づいていない。
展示ケースの前で、女性が自分の鞄を開けた。
「うちのは、これなんです」
差し出された小さな白黒写真には、店先に立つ四人家族が写っていた。右端の女の子が梨を持ち、足元にもう一つ梨が落ちている。ケースの大きな写真では、足元に梨がない。
花瀬町の小さな展示室で資料整理を担当する荻野澄は、二枚を交互に見た。大きく引き伸ばしたとき、端を切ったのだろうか。けれど、地面は同じ範囲まで写っている。
女性は吉岡千景と名乗った。写真の右端にいる八歳の女の子が、いま三十六歳になった彼女だった。
「落として、怒られたのを覚えてます。だから、この写真が好きで」
展示は『花瀬の午後』。亡くなった写真家、三枝康雄の十二枚の連作だ。閉店した灯庭写真館から寄贈され、今日から公開されている。
澄は十月二十八日の受入記録を開いた。康雄の息子、三枝修平と一緒に、ケースの扉へ確認紙を貼った。紙は破れていない。展示室には夜間の入室記録もなかった。
「大きい方は、あとから直したんでしょうか」
千景の問いに、澄はすぐ答えられなかった。写真の中の女の子は、梨だけでなく、左手の位置も少し違っていた。
今日判明したこと
- 同じ家族の二枚の写真で、梨と手の位置が違う。
- ケースの封は十月二十八日から破れていない。
- 展示の十二枚は三枝康雄の作品として寄贈された。
読者推理
二枚の違いは、何によるものだと思いますか。
投票結果によって本編の結末は変わりません。