記録 02
封をした日の写真
家族の控えと展示写真で、梨と手の位置が違う。展示ケースの封は破れていなかった。
澄は受入日に撮った写真を、画面いっぱいに広げた。
十月二十八日午後四時。展示ケースに十二枚が並び、修平が確認紙へ署名している。七枚目の家族写真には、すでに落ちた梨がなかった。
「展示中に変わったわけじゃないですね」
照明の調整に来た立花圭が言った。額装をした職人でもある。ケースには裏から写真を抜ける隙間はなく、壁との間にも人が入る場所はない。
澄は記録の余白に、『封をする前から違う』と書いた。封が無事だという事実は、写真が正しいという証明にはならない。
寄贈契約は十月二十日に結ばれていた。対象は康雄が一九九八年に仕上げた十二枚の原作。所有権は契約日に展示室へ移り、二十八日の搬入までは写真館で預かる取り決めだった。
修平は電話で、『父が同じ写真を何枚も焼いたのでしょう』と言った。焼くとは、ネガに光を通して印画紙へ像を写すことだ。
同じネガから何枚焼いても、人の手は動かない。立花はそこだけ、静かに言い直した。
澄は展示説明の『原作』という文字に小さな付箋を貼った。まず確かめるべきなのは、誰がケースを開けたかではない。何を、いつ、そこへ入れたかだった。
今日判明したこと
- 展示写真は封をした日から現在と同じだった。
- 契約対象は一九九八年に仕上げた十二枚の原作だった。
- 同じネガからの焼き増しでは、人の姿勢は変わらない。
読者推理
最初に確認すべき記録はどれでしょう。
投票結果によって本編の結末は変わりません。