記録 17
伏せられた軽傷者
一年前、FLOW-7の案内が人を集中させ、転倒者が出ていた。しかし市の公開報告には事故として記載されていなかった。
非公開の事故報告草案には、負傷者の内訳が残っていた。
救護室で処置二名。市内病院へ搬送一名。診断は手首の捻挫。いずれも軽傷。報告者は駅側の久我で、原因欄には「複数媒体の経路案内が同時に切り替わったため」とある。
久我は草案を見て、しばらく黙っていた。
「正式版では、負傷者なしになっていました。搬送された方が自力で帰宅したので、事故扱いにしないと説明された」
草案の修正履歴には、榊原の部署から届いたコメントが残る。
因果関係未確定。実証実験との関連を削除。
北辰データシステムズからは別のコメントがあった。
案内は各サービス側の判断であり、FLOW-7の直接制御ではない。
市も会社も、個別の設備を直接動かしたのは自分たちではないと言った。その結果、全体の動きを作った責任者は存在しなくなった。
秋山は草案を記事にできると言った。佐和は止めた。今公表すれば駅に問い合わせが殺到し、十月三十一日の対策より先に責任論だけが走る。
「いつまで待つんですか」と秋山は聞いた。
佐和は答えられなかった。
今日判明したこと
- 一年前の実証中、実際に三名が負傷していた。
- 市と受託会社は因果関係を互いの管轄へ押し返した。
- 正式報告では負傷者とFLOW-7の関連が削除された。
読者推理
秋山は草案を今すぐ報道すべきでしょうか。
投票結果によって本編の結末は変わりません。